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■成龍(ジャッキー・チェン)1989  


奇蹟
Miracle
Mr.Canton and Lady Rose
奇蹟/ミラクル



◆花売りのおばさんから一輪の花を買ったことをきっかけにマフィアのボスをたまたま助けた青年・ドラゴン(ジャッキー)が、なぜかそのままボスに就任。当然、納得が行かない元ボスの腹心(羅烈)達がドラゴンの邪魔をする。最初はマフィア興行に戸惑ってボスとしての格も何もなかったドラゴンだったが、やがて持ち前の腕で強いボスとして成り上がっていく。

現在になって見返すと実に、
「ああそうか」
と思うことの多い映画である。

ジャッキーがこの映画で求めていたもの。
そしてこの映画を撮ることで求めざるを得なくなったもの


両方がハッキリと浮き彫りになっている映画だ。
改めて、
・あのおばさん1人にそこまでしてやる必要無いだろう
・「来年も来いよ!」ってホントに来年からどうするのよ
という疑問というか不満は今でも残る。
ま、先に不満を言ってから今回のレビューを始めてみたい。

ぴーぴーわー


古くは「ドラゴンロード」の田豊父ちゃんに叱られながら、詩を詠むシーンが最初になりますかねぇ・・・
いわゆる言葉を主にした彼のコメディ演出というのは。
そっから次作の「プロジェクトA」。
こちらでは"酒場での火星くん太保くんのぴーぴーわ""ジャッキーの総督説得""ジャッキーの李海生を何とかやり過ごすお芝居"まぁ他にも(ありすぎることに気づく)・・・・・・

この映画にはアクションだけじゃない香港映画ならではの魅力の1つ、
広東語コント
という言い方はピッタリ合ってないかもしれませんが、 このようなものがたくさんたくさん詰め込まれています。
どれどれと−−−−−−−−−−−−−−−

わいわい楽しい広東語

・董驃おじさん  

まずはこの分野で頑張ってくれるのは流石に競馬評論家で現場でも数々の解説をこなしたであろう董驃おじさんの軽妙軽薄トーク。かる〜くジャッキーを騙くらかしてトンズラすると、その後の再会でもひょひょいといなして(ボスがジャッキーじゃなくて萬梓良だったらとっくに殺されてます)、バラおばさんの旦那役をそつなくこなし、さらにその軽妙トークで富豪に扮装したことを利用して、警察の呉耀漢にサギを仕掛けるという一挙両得にも成功!嘘八百だらけ広東語のイメージを決定づける活躍を披露してくれます。

・呉耀漢とその部下、火星くんら  

負けず劣らず楽しいのがこのユニット。
新鋭ボス・ジャッキーに警察協力へのお話をするもドジばかりの呉耀漢。その後の展開を見ても、「どうしようもない上司を持ったなぁ・・・」とすでに開き直って仕事している感のある火星くんの乾いたスマイルが素敵です?
李海生に殴られる呉耀漢の顛末も面白かったですね。最後に騙された董驃に対して、別れの挨拶をする呉耀漢には
「俺だって、悪いことしちゃったもんなぁ・・・」
という何とも切ない気持ちが出ていて、一瞬のことですが非常に彼を好きになれますね。

・こう見えてボケ役は午馬

これは出ていこうとする梅艶芳姉さんと引き留めようとするジャッキーのシーンを見れば一目瞭然ですが、
姉さん 「アタシは組織の道具なのっ!?」
ジャッキー 「そんなことはないっ!」
午馬 「道具です。」
ジャッキー 「余計なこと言うなーっ!?」
もう完全にコントになってます。

究極は大袈裟ですが・・・

それでですね。
この映画の凄いとこの1つとして、
配役が抜群すぎ
さすがに監督ジャッキーだけの力ではないでしょうが、これだけのオールスターキャストを集めておいて、ミスマッチが無いんですよ。ほとんどの出演者がホントに良い味出してる。特に脇役に注目していきましょか。

柯俊雄(オー・ジョン・ホン)
ライバル組織のボス役。これは凄い。何が凄いって、
こんな怖すぎるおっちゃんをこんな可愛くまとめられますか
ここは素直にジャッキーの演出家としての手腕を評価したい。だって、

愛と復讐の挽歌 野望編」「炎の大捜査線」観てみなはれ。怖いで〜
特に「愛と復讐の挽歌 野望編」で劉徳華をリンチするとこなんか怖いで〜 それが、「ノープロブレム!」 とか言って、場を一気に怖い笑顔で和ませるんですぜ。

太保(タイ・ポー)
ケンカっぱやいチンピラ。
見せ場はちょこっとだけですが、ここだけでも「プロジェクトA」でスパゲティをぶつけるべく奮闘した彼と重ねてしまいます。

李海生(リー・ハイサン)
ジャッキーに忠実すぎる奴。
忠実すぎるところに彼の今まで結構演じてきた"バカ敵キャラ"を思い起こすものがあるんですね(「死亡の塔」とか)。

田青
良い味ですね〜おっちゃん
バラおばさんの仲間で、後半は執事に扮するおっちゃん。奇蹟中の感動しながら招待客名簿を読み上げるシーンと 奇蹟前に袖裏で同情しているシーンが非常に印象的。

黄錦〔炎木〕(メルヴィン・ウォン)
とにかく警察の偉い人となると、この人が出てくるイメージが強い。
ここでもまさにその通り。いつも通りの上官らしい芸風を見せた後、実は組織を牛耳るボスでジャッキーと死闘を繰り広げたりはもちろんしない

周比利(ビリー・チョウ)
魚河岸の兄貴。
サモハンや元彪やジェット・リーを苦しめてきたビリーが満を持してジャッキーに作品登場!

しかし既に「サイクロンZ」でのベニー・ユキーデ戦である程度、強豪対決シーンというものを確かに極めた感のあるジャッキーにとって、対戦はあまり興味の幅で無かったか、ほとんどをジャッキーにはぐらかされて、大綱に巻かれて宙に舞い上がるのであった。

黎強權(ベニー・ライ)
絶妙すぎ・その1
まぁ普通に観てる人には全然気がつかないというか俺も初見は全然気がつかなかった。バラおばさんが住む集落の近隣の知人のおっちゃん役。
本作のつい1年前にジャッキーと強烈なイメージを残す対戦を繰り広げたアパアパー!が今回は別にどこのエキストラでも良いような役回りで、恐らく適当にジャッキーが
「この役はベニーさん、頼む〜」
って感じでお願いしたに決まってるが、劇中ジャッキーが喋ってる後ろでそわそわとしている忙しない芸風が最高で、物語的に彼がどうだと言うことは1つも無いのだが、常連客をホッとさせるツボを心得ている、ジャッキーの粋な計らいだとも思う。

許冠英(リッキー・ホイ)
絶妙すぎ・その2
まぁ普通に観てる人には全然気がつかないというか、でもこれはさすがに俺はすぐ気づいたのが彼だ。同じくバラおばさんが住む集落の近隣の知人のおっちゃん役。
なんでやねん
リッキーは凄い。
今回凄いばっかり言ってる気もするが、何が凄いって
格の違うスターなのにリッキーはいつまでもリッキーなのだ
功夫が上手いこともどうやら本当らしいので、
そうなるとさらに不思議なのだがあの
いつもいつもおどおどしていて頼りなさそうな芸風
これはどこから来るのだろう。
下記については言うまでもないが、あえて語ってみるのも面白い。

お兄ちゃんの許冠文に誘われて出演したいわゆる"3兄弟映画"は、一時期の香港映画興行収入No.1を独占し、2人の兄弟に続いてリッキーも当然スターになった。勿論、ジャッキーより早い。 さらにここが凄いと思うのが、末っ子よりも長男よりも早く兄弟共演から抜け出して主役を演じて見事、その年の興行収入No.1を叩き出したのは誰でもないこのリッキー様なのだ!
悪漢探偵」ではない。
1977年 興行収入No.1「發錢寒」 監督 呉字森 主演はリッキーと呉耀漢。 無論、これもジャッキーよりも先。 その後もたくさんの単独主演作があるのは調べればすぐわかるとおり。
じゃ、なぜこれにこんなほとんど端役扱いで出てるの?
ってなるのだが、ここがリッキーの一番面白いところで、
どうして出演したか?
って質問そのものに対しては恐らくリッキーさんの"心の広さ"が大きく影響しているんだろうってことは想像がつく。 先述のとおり、大スターなんだから 「こんな役やれるかっ!」
の一言で、オファーを蹴れるはずだ。
面白いとこはそこではなく、同じくゲスト出演の元彪との比較で一目瞭然なのだが元彪の場合、
「俺、ゲスト出演してます!」
ってのがアリアリと感じられる。実際そうなんだから何も文句はない。
今度はリッキーさんゲスト出演してるとこを観てみよう・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・ほんとにゲストか?

というわけで、これまたジャッキーの後ろで頼りなさそうな落ち着かない顔のリッキーのちょい役に全くの違和感が無いのだ
そのサマはまるでいつもジャッキー映画で火星くんや太保のように、後ろでウロチョロしていたかのように見事に画にはまっている、ゲスト出演で出ているスターのリッキーではなく、しっかりと端役であってもいつもの芸風を見せてくれるリッキーさんなのだ。

他にも運転主役の樓南光、羅烈さん、ホテル従業員の黄新、田豊さん、張牛郎、もちっと言いたいけど顔は知ってるけど名前知らない人が多くなってくるな〜

総合すると、

本作はジャッキーが培ってきたアクションで無い部分で
・香港ならではのワイワイガヤガヤ楽しい広東語ドラマ
・各役者さんの色をちゃんと把握して引き出せる演出力
この2つの要素を存分に可能な限り発揮した映画
であると言える。
ジャッキーはここに、
2つの大きな要素がたっぷり入った決定版を出したのだ。

それでいて

この映画のアクションに満足しないであろうことか(何語じゃ)。
これだけドラマや細かいギャグや役者さんの味が詰め込まれているにも関わらず、一目瞭然アクションは十分と盛り込まれており、他の名作にヒケをとらない。本作のアクションで顕著なのは、血が出ないことだ(残酷な表現が一切無い)。 マフィア組織と組織の対立を描いて、周りにこれだけ悪いツラした男ども並べてるにも関わらず(他の映画で血流しまくりの男ばっかりにも関わらず)一滴の血も出ないのは逆によう頑張った。微笑ましい。
ただ、そう言えばなぜ成奎安は出てないのだ?もったいない。

アクションシーンの全体的な演出からもわかるように、特にサイレントムービー的演出度も非常に高い。まぁその軽いウェスタンなBGMのワリに実際はかなり危険なスタントをこなしていたりとその辺のギャップを感じてしまうことはままあったのだが。

そりゃそうだ

要素が詰まってるか詰まってないか、それだけで語れば
この映画に無いのは"開放感"だけである。つまりスケール。
他は全部香港映画の中で出せる全てを究めているに限りなく近い。本作のストーリーよりもこの映画にたっぷり詰まって非常に良く絡み合った要素そのものが非常にミラクルである。
そしてジャッキーは"開放感"を求めて次の映画に取り掛かる。

それは「プロジェクト・イーグル」。
さらに四の五の言うのは「プロジェクト・イーグル」の章にしよう。
「プロジェクト・イーグル」を完成させたジャッキーが監督業を一旦降りたのも非常にわかる。その時点で監督として出来ることのほとんどを出し切ったのだ。これこそが冒頭の"この映画を撮ることで求めざるを得なくなったもの "である

だったらさー

香港ではこういう映画撮ったらどうよ?
ジャッキー。 つまり、
・香港ならではのワイワイガヤガヤ楽しい広東語ドラマ
・各役者さんの色をちゃんと把握して引き出せる演出力
そりゃー大ヒット!
そんなもんを期待するのは難しいのかもしれないけど、それが一番良いんじゃないかなぁ・・・ だいたいね。
この辺の手腕、特に"ワイワイガヤガヤ楽しい広東語ドラマ"はハリウッドで当然出来ないし、仮に出来たとしてもそれはスパゲティの麺で作ったラーメンであるわけで、つまりハリウッドであればハリウッドなりの新たなドラマ構築もしていなかないとダメなわけ。
そんなことするよりも香港で作った方がずっと早い。

ハリウッドでのジャッキーの生き方というのはある程度、固まってきたわけだから香港で、アジアではどうするのかってところで、ジャッキーにはこのような映画(もちろんアクションは望まない)を撮っていけば良いんじゃないかなぁ・・・(若手を育てつつならさらに良さげ)

■CAST&STAFF
監督・原案 成龍(ジャッキー・チェン)
出演 成龍(ジャッキー・チェン)
梅艶芳(アニタ・ムイ)
牛馬(ウー・マ)
羅烈(ロー・リエ)
董驃(トン・ピョウ)
葉蘊儀(グロリア・イップ)
呉耀漢(リチャード・ウン)
火星(マース)
太保(タイ・ポー)
李文泰(リー・マン・チン)
李海生(リー・ハイ・サン)
張牛郎(チャン・ウー・ロン)
柯俊雄(オー・ジョン・ホン)
許冠英(リッキー・ホイ)
元彪(ユン・ピョウ)
黎強權(ベニー・ライ)
田青
黄錦〔炎木〕(メルヴィン・ウォン)
周比利(ビリー・チョウ)
武術指導 成家班
音楽 (スー・ソン)
脚本 ケ景生(エドワード・タン)
成龍(ジャッキー・チェン)
製作総指揮 何冠昌(レナード・ホー)
鄒文懐(レイモンド・チョウ)
制作年度 1989


 
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