喜劇之王
King of Comedy
喜劇王
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ジャッキーの映画にいつも無いものがある。
どこのどの作品にも一つも無いもの。
それは一緒に生活してる人、家族だ
かつてジャッキーが主力として関わった作品で、お兄ちゃんや妹や奥さんが出てきて一緒に活躍したなんて話があっただろうか? 一つも無い。
いつも彼の前にあるのはコンビを組む初対面の人間や敵と少数の味方だけだ。「デッドヒート」は家族いるじゃん と言われても困る。それはいるだけで描けてないから。
要はピントがジャッキー以外に合うことが無いのだ。
物語はジャッキー事件解決に向けて真っ直ぐに進み、余計なサブプロットの遮断を許さない。わずかに他へピントが移る作品は「奇蹟/ミラクル」ぐらいだろう。こう言うとホントに奇蹟かもしれない。
それはそれで別にそんなに否定しないのだが(たまにはやってほしいが)、 周星馳(チャウ・シンチー)が作る映画とはほんとに決定的に違う。
・・・と生意気な前フリで書いてみたけど、実は周星馳を詳しく語れるだけの数を観ていなかったり。これが2作目だったりして。
この映画面白いっすねー
と、思いっきり簡単な感想だけじゃな。
周星馳には「食神」や「0061 北京より愛をこめて!?」等の傑作と呼ばれる作品があるにも関わらず、わたしゃまだ観てない。観てないのであくまでその辺、前提の話になるけども
周星馳って人間をちゃんと見てるんだね〜
脇役全てに個性があって、人生があって小市民である
ジャッキー映画だけのように、
「ジャッキーだけが美味しくて、後はあくまで味噌汁のねぎや漬物ほどの妙味でしかない」
ということはなく、脇役が光る部分を必ず作り、大雑把にまとめずにきちんと一つ一つ描く。
小さな積み重なりが全体の面白さとして蓄積されていく。
映画を思い返した時、
「ここも面白かったな、あそこも良かったな。ちょっと出てきたあの人も面白かったな。ジャッキーの倒れ方も流石だな。」
と、あくまで主役とヒロイン(周星馳&張柏芝)の大筋を噛みしめながら色々と楽しむことが出来るのだ。
大っぴらに名前を知られたメジャーな監督でも、いざフタを開けてみると
「なってねーな」
の一言で正直済ませたい映画もいっぱいある中で・・・つまりは
誰でも撮れるんじゃないの? と思っても、実際他の撮れていない作品を観てしまうとだな、
周星馳ってタダモノじゃないんですね
と、「少林サッカー」の後で今さら言いたくもなる。
物語は俳優を志す若者がスターの座を射止めるまでのシンプルなストーリー・・・・ かと思いきや、二転三転とひねりまくり、
「んで、どうなるのだ?」
と、行く末の興味を失わせない周星馳の「映画人として変わった奴」であるとこが十二分に発揮されてる展開で、その大筋に自分の中で賛否両論なところもあった上で面白い。まわりくどい言い方したけど、納得行かない部分も含めて新鮮だったなと思う。
一番の疑問はこの映画のタイトルが「喜劇之王」であったということだ。
(観た人はわかるよね?)
とりあえず、その疑問の答えが探れないもんか---------------
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のっけからいきなり周星馳映画の魅力を自ら言ってるところがダイレクト過ぎて興味深い。
"エキストラでも役は役だ。感情込めてやれ"
というわけで、主演の役柄は監督か?思わせておいて、カメラ覗いて勝手なこと言ってた単なるエキストラ・周星馳というオチであるが、
"エキストラでも役は役だ。感情込めてやれ"
これがこの映画そのものの魅力を表現する言葉で、
また「喜劇之王」をタイトルするゆえんなのだと私は思う。
■映画スタッフ
そこに出てくる助手のおばちゃんと助監督と監督で十分面白い。
何が面白いってまず顔だろう。表情。
助手のおばちゃんの周星馳に
「もう帰って〜!!きぃぃ!!」
の表情がたまらなくおかしい(笑笑)。
怒鳴ってる割には結局は周星馳を使い続ける助監督も監督も滑稽。
周星馳の炎に耐えるシーンはきつかったでしょうね〜
ジャッキーのシーンもヨカですね。ゲスト出演であるということをハッキリと意識して面白く仕上げてます。「プロジェクトS」のゲスト出演なんか蛇足でしかなかったもん。
■町の人々
間違いなく本作の小さなそして大きな魅力の1つです。
絶えずフルチンのガキ(いい加減なんか着ろよっ!)
周潤發気取りというか萬梓良気取りみたいなチンピラかぶれのガキ
またそのチンピラガキを大切に想うおばあちゃん
ほんで舎弟の田啓文、殴られても殴られてもショバ代が取れるまで頑張った見習いチンピラ。(お前は「ドラえもん」第6巻最終話、のび太くんか!)
そののび太くんのしぶとさに負けてショバ代払う怖いおっちゃん
張柏芝の働くスナックのママ
今パッと思いだしてもこんだけスラスラと思い出せるんです。
それはそれぞれに印象的なシーンがあったから。
ほんとに丁寧に描いているんですね〜
■莫文蔚って微妙な人ね〜
他のところで感想読んでたら「田中真紀子に似てる」ってのに笑った。
サバサバして感じ良いし、英語上手いし、その辺のシャキッとした感じまで似てる・・・場合じゃなくてだな。
今回は皆が憧れる大スターを演じています。
劇中で撮影している呉字森ばりの彼女主演映画は
"実際に一本作ってしまえるぐらい面白そう"
この映画でネタを使ってしまうのが勿体ない気もするぐらい良い。
それにしても周星馳主演映画の顛末(劇中にて)、上役のひそひそ話、 周星馳の絶望、莫文蔚のプロとしての決断、色々なことが同時に緻密に描かれている秀逸なシーンだと思う。まぁわかりやすく言うと観客はここで、
「こんな上役とかどこにでもいるんだよなぁ・・・」
「周星馳も可哀想になぁ・・・」
「でも莫文蔚だって辛いし、確かにこのまま共演しても良いものは出来ないしなぁ・・・」
一瞬にして様々な思いを巡らしてしまうのだ。
■呉孟達のおっちゃんいいね〜
理論ばかり振りかざす周星馳に、
「甘いこと言ってんじゃねぇ」
と冷たく当たるのは配食係の呉孟達。
彼が物語にどう関わってくるのかは非常に大きく興味を惹かれるところだろう。それにしてもこの展開には参ったな。そうきますか。
まさにこのシーンは、芝居というもののエッセンスが詰まった息詰まるスリリングなシーンになっていて、「狼 男たちの挽歌・最終章」のクライマックスでも始まったかのような突然の展開にたまげる。
"まさかこの映画でこういうドキドキが味わえるとは思ってなかった"
ってね。
「弁当1つでここまでスリリングに芝居って持ってけるもんなんだなぁ」
と改めて感嘆した次第です。
■張柏芝最高すね!
彼女を引っ張ってきたのが周星馳で間違いないなら、
つんくもびっくりの名プロデューサーですね!
趙薇(ヴィッキー・チャオ)の時もそれは思いましたが、今回はとくに感じました。余りに自分が周星馳の計算通りに彼女にはまってしまってちょっと恥ずかしいぐらいです。
登場時は女子高生のセーラー服。
音楽もポップで「あら、可愛い女子高生♪」と普通にときめかせてくれます
・・・って、女子高生でなくて、女子高生パブ就業中かよっ!?
そっからの張柏芝のスレにスレまくったスレっからしの喋りまくりが強烈で、 幾ら、
「ボーイッシュの中に時々女の子らしさを垣間見せるのが一番可愛らしい」 と考えてる俺でもこの豹変そしてベラベラベラベラ!には唖然。
最初のショーウィンドウに顔寄せて瞳ときめく女子高生はどこへ!?
ちなみに劇中で彼女を怒らせる周星馳の一言が
「いくら水商売の方でも」
と、"そこまで怒ることないだろう"と思わせるセリフでしたので直訳はもっと強烈なこと言ってるんでしょうね。
いやしかしやばいですぞ。
広末さんも上戸さんもキムタクもホンマに頑張りや!思い切り負けてるで! ・・・まぁこれは事務所の方で選べる役柄の幅を狭めてしまうのもデカいんでしょうなぁ・・・日本で過激な役柄もあんまり無いし・・・
この当時、張柏芝は二十歳そこらでしょ?
お父さん見たら泣くよ、この演技。リアルすぎて。
「うちの娘はいつの間にこんなスレっからしに〜(涙)」
可愛いだけに余計ですわ。
つーか、どうやって演技指導してここまでの演技を二十歳の身空にさせるのかねぇ。
というわけで、才能あらたかな張柏芝ですが、
最初に散々スレっからしだった張柏芝。
後はどんどんまた可愛くなっていくわけで、こりゃまた・・・
周星馳と一夜を共にした朝の一連のシーンにて、感情表現がまた上手いこと。その後のタクシーの"泣き"はいらないと思いましたね。それが説明用に感じるほど秀逸な演技だったと思います。
つまり純→スレ→純なスレ、スレな純と僕は二回騙されるわけですね。
やっぱり可愛いじゃん!
言い換えれば一粒で三粒ぐらい美味しいわけです。
一番グッと来るのはやはり、莫文蔚との絡みの部分かな。
顔に殴られアザ作られながら素顔の張柏芝の可愛いこと!
またそれだけじゃなく、この突然出来るきまぐれオレンジロードな部分のやり取りが秀逸なのです。
「ドラゴン怒りの鉄拳」と全く同じ投げ飛ばされ方したのは大笑い!
■周星馳って
なんか面白い人ですねぇ。
僕にはイマイチ彼自身の役者としての魅力を説明し切れません。
それは上記に連ねたキャスト陣に比べ、どうも主役本人の彼が希薄な気がするんですよ。例えば「少林サッカー」で趙薇(ヴィッキー・チャオ)の肩にハナクソつけてたオカマが強烈なイメージを残すように、脇役にもどんどん思い入れしてしまうこの映画でも、周星馳は半ば進行役のような印象になっちゃうんですね。
じゃ彼自身魅力がないのか?
って言ったら、そこが一番難しくて、
まともに話を聞かないホステス相手にグッと堪えて紳士的に喋る彼、主役を降ろされて無念の気持ちを堪える彼、女性に対してやはり不器用な彼、銃を突きつけられて完全パニックな彼、
どちらの演技も魅力的でずっと見ていたいよな気分になることも然りなんです。
ぬお。
彼を役者として説明しきれん。
これは私がまだまだたくさん彼の映画を観なくちゃです。
■喜劇之王
まぁこのタイトルに期待して肩透かし喰らったって感想もよくわかりますね。 僕のように知らない人ではなく、周星馳迷ならなおさらでしょう。
ジャッキーが"功夫乃王"って映画撮ったみたいなもんですからね。
そりゃ期待せざるを得んわ。
私も1つだけ文句を付けるのであれば、
「少林サッカー」のように勝利と栄光掴んでスカーッ!! と気持ち良いカタルシスは得られない・・・これそのものではなくて、
カタルシスを得られないなら、その代わりになる部分をもちっとだけ細かく描いて欲しかったなという気持ちはあります(さっさとエンディング行っちゃうもんね)。ここまで細かく描ききってるからこそです。その辺は少しだけ尻すぼみを感じました。
話は突然、変わりますが「笑の大学」という三谷幸喜が書いた戯曲があります。これは、戦時中に検閲を受ける喜劇作家が意地悪で生真面目な検閲官によって何度も何度も書き直しを要求されるものの、そんなことを繰り返してるうちにすっかり検閲官が喜劇にのめり込み、最後は一緒になって面白い台本を書き上げてしまうといった内容です。
喜劇之王とは、つまりはそのようなことで
上記に挙げた色々な脇役たちの素晴らしさ
"エキストラでも役は役だ。感情込めてやれ"
というように、一部の人間が持っているのではなくごく小市民の誰でもが持ち得ているものなんだということを伝えたかったのではないでしょうか。
■じゃあその喜劇之王である・・・
許冠文(マイケル・ホイ)に是非、本作の感想聞いてみたいですね。
本作で描かれる登場人物はみんな小市民、どこの誰もが抱える悩みを持って生きています。これは日本の「男はつらいよ」はじめ情緒たっぷりな映画を撮る山田洋次監督も趣向は全然違え、描いてる部分は全く同じです。
違うのは日本の牧歌的で綺麗な景色を映して「和の心」と共鳴させたりはしないことぐらい。
"大きな幸せ掴み損ねた人達が、小さな幸せを掴んで終劇"
ってパターンも似てます。
許冠文 「寅さんは封建的で好みじゃない」
随分前のインタビューで許冠文はこう語ってました。
それだけに興味ありますね。
私自身はこの映画、大爆笑とはいきませんがオススメです。
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