癲〔人老〕正傳
The Lunatics
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こうして振り返ってみるとD&B(コ寶電影有限公司)が製作した作品は暗い作品が多いよなぁ。明るいのは「帰って来たMr.BOO!!ニッポン勇み足!」ぐらいしか思い出せない。
消去法で考えるとそりゃ当然っちゃあ当然で、ゴールデンハーベストは成龍(ジャッキー・チェン)を筆頭に国際的で明るい娯楽作品がメインで、シネマシティも同じく明るい娯楽作品がまずメイン、D&Bはどうする?ってそりゃ暗い作品に行くわな。
ええと、Wikipediaでは爾冬陞(イー・トンシン)の監督デビュー作を「野獣たちの掟」としており、本作には何も触れられていないのだが、実際は本作がデビュー作だったはず。
その内容はホンマにね、彼に関しては何回も同じこと書いてはいるけど、功夫・剣劇のアクションスターだった彼がデビュー作でいきなりこれを撮りますか!って内容で、なんと知的障害者達と福祉員の戦い、というか彼らのもう命がけの苦悩を描いたというか。
主演は当時、というか私の世代ならコメディ映画に出てる役者としての認識が高い
馮淬帆(フォン・ツイフェン)で、今回は正義感強く、重度の知的障害者と真摯に向き合う真面目な福祉員を見事に演じている(ま、彼を見ればシリアスな演技が出来ることなど一目瞭然だが。昔から映画出てるし。)。
ただこの作品、脇を固める役者達がもっと凄いんだよな。
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香港のとある繁華街で
知的障害者である梁朝偉(トニー・レオン)が包丁持って暴れていた。
これをなだめ、諌めるために駆け付けた馮淬帆は
成龍(ジャッキー・チェン)人形で応戦・・・これ、欲しいな。
上手く梁朝偉を落ち着かせた馮淬帆、犠牲者を出さずに事件を解決した彼に
たまたま居合わせた女性ライターの葉コ嫻(デイニー・イップ)は深く感銘を受け、彼と知的障害者の取材をしようと決意する。
最初は当然邪魔なので取材を断っていた馮淬帆であったが・・・そりゃ馮淬帆というより障害者にとって邪魔だもんな。彼女の熱意を理解し、いつの間にか二人で活動することに。
要注意人物では?と思われていた秦沛(ポール・チュン)の様子を見に行ったが、彼は極めて闊達で口調も滑らか・・・つまり、まとも。
「やれやれ」とばかりに次の要注意人物へ。
こっちは完全にイカレていた。
ホームレスの知的障害者・周潤發(チョウ・ユンファ)は・・・
・・・なんつーか、どん引き。もう嫌なので書かないが惨たらしい結末を迎える。
一方、まとも・・・というか正常状態にあると思われていた秦沛であったが、離婚して親権を取られ、息子がもう戻らないということにショックを受けて完全な錯乱状態へ。
住民に叩きのめされ、さらに状況は悪化。
刃物を持って人を刺しては逃げまどい、遂には
授業中の幼稚園の中へ。
多数の犠牲者を出したこの事件は
余りにも悲しい結末を迎える。
そして
梁朝偉が・・・
終劇
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・・・そりゃ福祉団体からクレーム来るわ。
とは思うが、奇麗事でまとめるのでなく、ちゃんと描かないと何も伝えられないのと同じだし、別にスーパーソーシャルワーカーを描きたかったはずもなく、社会問題をストレートに提起した作品であるからこそ価値がある。
それぞれ、知的障害者を演じた梁朝偉、秦沛の演技は予想通りに素晴らしいもので、周潤發はちょっと大スターとしての顔が完成されちゃってるから演技は申し分なくとも難しいところがあったんだけども、幅広く何でも演じれる
秦沛の鬼気迫る演技は物凄いものがあって、いやそりゃあ彼の代表作でしょう。
まぁそして
梁朝偉、この男の演技力には舌を巻く。
私自身、小学生の時は知的障害者である同級生をつぶさに見て、会話もして一緒に過ごして来ただけに、梁朝偉の演技は正しくその通りと言うしかない。
ポイントとなるのが、恐らく・・・恐らくですよ、
梁朝偉は先天的な病気、 秦沛は後天的な病気として描いていると思うんですよ。
ある日突然、めまい、心悸亢進、呼吸困難といった自律神経の嵐のような症状とともに激しい不安が発作的に起こる病気、これの最悪のケースが秦沛に描かれているのかもしれないなと思うんですね。秦沛の心象世界を表す様な気持ちの悪い効果音も、見てるこっちが気持ちが悪くなりますし、この音の表し方は凄い。
そしてここを取り上げて映画を一本作ってしまうのかと、処女作にして爾冬陞はこういう企画を暖めていたんだなぁと思うと、チャンチャンバラバラとアクションスターやりながら裏で彼は物凄いことを考えていたんですねぇ・・・
その監督としての演出力は本作からバッチリ証明していて・・・
この辺は楚原監督や孫仲(サン・チュン)監督からそのノウハウをガッチリ学んでいた、血肉とするため日々勉強を重ねていたんでしょうねぇ。
だって、この物語で観客をグイグイと引っ張って行けるんですよ。
冒険活劇ならもっと簡単なプロットでも引っ張って行けるのに、正反対のプロットでこんだけテンポ良くフィルムを繋いでいくあたり、流石だなぁと思いましたね。
あの、怖い映画ですけど、爾冬陞作品に興味がある人には必見の作品でしたね。絶対、観なくちゃだめ。 周潤發迷にオススメ出来る作品ではないけど個人的にはその衝撃度も含めて傑作。
・・・うーん、レビュー書いてたら少し滅入ったな。傑作だけど、見終わったら楽しい映画観るとかした方が良いと思う。
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